◆アレルギーとは
1.アレルギー反応
環境に存在し通常は害のない物質(アレルゲン)に対して生体が引き起こす,過剰な免疫反応の1つがアレルギー反応です.アレルギーを持つ動物は,アレルゲンに対して抗原特異的免疫グロブリン抗体(以下IgE)を産生します.産生されたIgEは肥満細胞と呼ばれる細胞に結合します. 再び同じアレルゲンが体内に入ると,その肥満細胞から刺激性物質が放出され,痒みや炎症等の皮膚症状が現れます.
2.アレルゲン
花粉・カビ・ダニ・昆虫・食物など数多くの物質がアレルゲンとなります.
3.増悪因子
アレルゲンではありませんが,天候や大気汚染・居住環境・食生活・衛生状態・ストレスなどによって症状が悪化することがあります.
4.食物アレルギーとアトピー性皮膚炎
原因となるアレルゲンが食事由来の場合は食物アレルギー,環境由来の場合はアトピー性皮膚炎とされますが,混在することが多く,単独要因で症状がでることは稀です.
アレルギーの発症と治療:多因子モデル
アレルギー・免疫 Vol.12,No.1,2005 p36より引用改変
◆感作とは?
感作(かんさ)とはアレルギーの準備段階のこと
「感作」というのは、アレルギーを象徴する独特な現象を示す医学的な専門用語です.
「感作」がおこらなければ、アレルギーは発症しません.
体内に初めてアレルゲンが侵入してもアレルギー反応をおこすことはありません.
「感作」とよばれる状態は、アレルギーを発症するひとつ前の準備の段階なのです.
アレルギーを引き起こすタンパク源をアレルゲンと言ったり、
抗原(こうげん)と言ったりします.
⇒抗原が最初に体内に侵入すると,抗原提示細胞(こうげん・ていじ・さいぼう)がそれを見つけて,「異物が侵入した!」と認識します.
⇒抗原提示細胞はアレルゲンの情報を信号化し,その信号を免疫細胞(めんえき・さいぼう)に受け渡します.
⇒免疫細胞は,この異物を「受け入れてもよいものかどうか?」を判断し,「受け入れられないもの」と判断すると,個々のアレルゲンに合わせたIgE抗体(あいじー・いー・こうたい)を作ります.
⇒体内で作られたIgE抗体は,血液中の肥満細胞(マスト細胞)とよばれる細胞に結合します.
⇒肥満細胞の表面には,IgE抗体が結合するための鍵穴みたいなものがあるので,そこに抗体がくっついていくわけです.
このような『IgE抗体が作られて、肥満細胞に付着できるようになった状態』を医学的に,「感作」とよんでいます.
この感作という状態を経て、初めて、アレルギー症状が出ることになるのです.
感作とはアレルギーの「発症前の準備段階」アトピー性皮膚炎,食物アレルギー,蕁麻疹(じんましん)あるいは、喘息(ぜんそく)といった疾病のようにアレルギーが原因となっているような症状は,この「感作」という段階を通らないことには、発症しません.感作が成立すれば、アレルギー反応がいつでもおこる「準備万端」の状態になっているということです.
◆感作と発症の違い
アレルギー反応の発症
感作された後、再びアレルゲンが体内に侵入してくると・・・
肥満細胞の表面に結合したIgE抗体にアレルゲンが捕まり、架橋がおこる※と、
肥満細胞が刺激され、細胞内からヒスタミンなどの化学伝達物質がまき散らされます(脱顆粒).
この化学伝達物質によって,炎症がおこり,赤くなり,「痒く」となったり、湿疹ができたりするのです.
感作しても,「いつ発症するか?」はわからない
感作したとしても,アレルギーの発症が「いつからおこるのか」は、知ることはできません.
アレルゲンに対するIgE抗体を調べる血液検査で、
「鶏肉⇒陽性」という結果が出たとしても
実際には,鶏肉を食べても,まったくアレルギー症状が出ないという動物もいます.
この理由も、「感作していても発症するとは限らない」という事実があるからなのです.
血液中のIgE抗体の存在は、「アレルギー反応をおこしている状態」を意味しているのではありません.
アレルギー反応をおこす準備ができている……つまり,「感作されている」ということを意味しているのです.
「感作」と「発症」は別もの.
「感作」しても、いつ発症するかはわかりません.
ハウスダストマイトに感作しているのにもかかわらず,
「生涯、アトピー性皮膚炎とは無縁だった」なんて幸運な例も、実際にはありうることです.
何がきっかけで発症するのかは,まだはっきりとはわかっていないのです.
「感作されてる状態」をなくす方法・・・それが減感作
「感作」はアレルギーの準備段階ともいえる状態なので,その状態がなければアレルギーはおこりません.
「感作された状態をなくす方法」は減感作療法と呼ばれます.
人では1911年に花粉エキスを用いての報告以来,100年以上の前から研究が続けられています.
WHO(世界保健機関)では減感作療法を『アレルギー状態の治癒を促す唯一の根本治療法』と位置付けています.
犬でも1941年からその報告がみられます.こういった方法はまた,「免疫療法」ともよばれます.
とくに最近では、
海外から順法的に入手された動物用医薬品を用いた複数のアレルゲンを含んだ注射による
・ 減感作療法(げんかんさ・りょうほう)
複数のアレルゲンを口の中に滴下する
・ 舌下免疫療法(ぜっか・めんえき・りょうほう)
といった治療法が、一部の病院で、安全性を確認しながら実際におこなわれています.
◆アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎について
1.奇妙な病気
アトピー性皮膚炎(AD:Atopic Dermatitis)は,痒みを呈する動物の皮膚疾患の中で,遭遇する機会が多い疾患です.本来は奇妙な病気というギリシャ語を語源とするアトピーは,食事中や環境中に存在する様々なアレルゲンに対してIgEを産生して病気を引き起こす遺伝的体質を指すとされています.
2.アトピー体質
アトピー体質は遺伝的なものであり,家族性に出現する傾向があります.奇妙な病気と表現される様に,痒みという症状として現れるまでには複数の要因(多因子)が重なり合っています.
3.複数の要因
CADの発症から治療・維持するまでに,この複数の要因がどのように関与し,それをどうコントロールしていくかを理解する事が治療のポイントとなります.
とりわけ重要な位置を占めるのが免疫のバランスと皮膚のバリアの問題です.
下図にその概要を示します.
アトピー性皮膚炎発症のメカニズム
①表皮バリアが不安定となり,皮膚の中にアレルゲンが浸入します.
②表皮内の樹状細胞やランゲルハンス細胞などの抗原提示細胞にアレルゲンが捕捉されます.
③抗原提示細胞がリンパ節に移動します.
④リンパ節内でアレルゲン情報が未分化のT細胞に提示伝達されます.
⑤アレルゲン情報を受けたT細胞がIL-4、IL-5、およびIL-13を分泌するTh2細胞に分化し増殖します.
これらのサイトカインが好酸球を活性化させ,B細胞をIgE産生するタイプへと分化誘導します.
⑥皮内の肥満細胞に結合したIgE抗体がアレルゲンによって架橋※を受け,肥満細胞の脱顆粒※※を促します.
⑦ケラチノサイトが活性化され,TARC※※※を発現します.
⑧TARCにより炎症細胞の遊走と定着が促されます.その結果,T細胞がサイトカインを分泌し,好酸球が炎症顆粒を放出します.
これらが炎症と痒みを呈する臨床症状に連動します.
引用元:Christine Loewenstein, Ralf S. Mueller. A review of allergen-specific immunotherapy in human and veterinary medicine. Vet Dermatol 20:2, 84-98. 2009
語句解説
架橋:橋渡し、橋を架ける事
肥満細胞の活性化には肥満細胞が単にIgEに結合するのだけでなく,二つ以上のレセプターがアレルゲンによって橋渡しされることが必要です.
脱顆粒:
肥満細胞と好塩基球はその顆粒のなかにヒスタミンや酵素など,好酸球は組織傷害作用をもつ特殊な蛋白質(MBP,ECPなど)を貯蔵しています.アレルゲンによる架橋や、サイトカインの刺激によりこれらの細胞は、顆粒内物質を細胞外に放出し,アレルギー反応を引き起こします.
TARC:
Thymus and Activation-Regulated Chemokineは,表皮角化細胞などで産生されるケモカインの一種.皮膚の病変部位などにTh2細胞を遊走させる働きがあり,その作用によって集積したTh2細胞がアレルギー反応 (IgE産生,好酸球の浸潤・活性化など)を亢進し,症状を悪化させると考えられています.